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大阪家庭裁判所 昭和36年(家)4257号 審判

本籍 朝鮮 住所 大阪市

申立人 曾景俊(仮名) 外一名

住所 大阪市

事件本人 金斗善(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は、申立人両名が未成年者たる事件本人を養子とする縁組をなすについて家庭裁判所の許可を求めるというにある。

当裁判所の調査の結果によれば、申立人曽景俊は朝鮮済州道北済州郡○○○○に、その妻である申立人曽正河は朝鮮済州道北済州市○○にそれぞれ本籍を有する朝鮮人であること、事件本人は朝鮮済州道北済州郡○○○○に本籍を有する朝鮮人たる申立外金良元の二男(一九四八年十月二十九日本籍地において出生したが出生届出未了のため戸籍に登録されていない)であることが明らかである。

そこでかかる朝鮮人間の養子縁組について、養子となるべき者が未成年者である場合に家庭裁判所の許可を要すべきものか否かについて判断する。法例第一九条第一項によれば、養子縁組の準拠法は各当事者の本国法と定められているところ、朝鮮は現在大韓民国(いわゆる南鮮)と朝鮮民主主義共和国(いわゆる北鮮)とに分かれ、互に朝鮮半島全域についての領土主権並びに対人主権を主張して抗争し、それぞれその支配下にある地域に独自の法秩序を妥当せしめていることは顕著な事実であつて、かかる場合には、国際私法上いわゆる連結点たる国籍として抽象的な朝鮮というものを想定したとしても準拠法決定についてなんら資するところはない。(国籍を朝鮮とした上で、大韓民国又は朝鮮民主主義共和国のいずれの法を適用すべきかにつき、一国数法の関係にある場合として法例第二七条第三項により処理せんとする見解は、本来国家として統一された組織の中に異法地域が存在する場合に適用をみる上記条項の趣旨からして正当でないと考える。)

而して、国際私法が本国法を指定する根本的な意義に着目すれば、むしろ端的に当事者が最も密接な関係を有する地域において現実に実効性をもつて妥当している法を直ちに本国法とすることが相当であると解せられる。

さて、本件の養親となるべき申立人両名及び養子となるべき事件本人は現在いずれも日本国内に居住しているのであるが、かかる状況の下において、本国たる朝鮮のいずれの地域を当事者が最も密接な関係を有する地城とすべきかを考えてみるに結局申立人両名については、申立人曽景俊審問の結果により認められる申立人両名の来日前の住所地であり且つ本籍地でもある済州道を、また事件本人についても金良元審問の結果により認められるその出生地で且つ来日前の住所地でもあつた済州道をもつてそれぞれ最も密接な関係をもつ土地と判定するのが相当である。そうすると、済州道が現在大韓民国政府の支配する領域内に属し、その制定した法律が実効性をもつて妥当していることは顕著な事実であるから、大韓民国の法律が本件養子縁組の準拠法であるといわなければならないところ、大韓民国において現在行われている民法(一九六〇年一月一日施行)は未成年者の養子縁組について法院その他国家機関の許可又はこれに類する処分を全く事件としていないことが明らかであるから、当裁判所が本件養子縁組につき許可をなし得べき限りでなく、本件申立は理由がないものといわざるを得ない。よつてこれを却下することとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 小石寿夫)

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